在庫の価値を把握して適切に会計処理できれば節税につながる。「売れなかった在庫が節税になるんですか?」私が思った心の声です。節税につなげるためには、売れ残りの理由や在庫の適切な会計処理は重要です。当期利益がある場合は、多くの税金を徴収されてしまいます。しかし、見た目上その利益を少なくできれば、税額は少なくなります。はたして利益を少なく見せることができるのでしょうか。今回は評価損を損金算入する条件等についてまとめていきます。
棚卸資産評価損とは
在庫は、希望通りの価格でいつでも売れるとは限りません。流行おくれや事故による破損などでどうしても仕入れた価格以上の売値で売ることができないケースはあります。また一般的に、在庫期間が長ければ長いほど品質劣化が進み、希望通りの価格で売ることは難しくなってくるでしょう。このような在庫は「不良在庫」や「滞留在庫」とよばれ何らかの経理処理が必要となります。そこで、商品が仕入れた金額以上の金額で売ることが難しい場合に計上されるのが「棚卸資産評価損」です。棚卸資産評価損は、期末の決算時に計上されます。「棚卸資産評価損」は、会社財産の実態を決算書にきちんと反映させるための重要な会計処理です。どの点が重要かと言うと、大きく2点挙げられます。
①損失を将来に繰り延べしない大切な経理処理である点
②法人税法で認められている評価損の計上は節税につながる点
棚卸資産評価損を計上するメリット
大きく2つのメリットがあります。
メリット①金融機関の評価が上がる
損失を将来に繰り延べしない経理処理をすることで、在庫という会社財産の実態をきちんと決算書に反映できます。税務上認められない損失であったとしても、損失を将来に繰り延べしないことで、早めに在庫処分に取り組むことができます。金融機関に融資を受けたい時の金融評価において、適切な会計処理を行った上での利益の減少は、肯定的に捉えられ、会社の信用度も高く評価されます。
メリット②節税につながる
税務上認められた損失であれば節税につながり、不良在庫を抱える財務上のリスクを軽減することができます。不良在庫を抱えたままで利益を出すと余分な税金を払うことになります。税務上認められた損失の計上はキャッシュフローの改善につながります。
棚卸資産評価損の計算方法
在庫の金額は、実在庫数×仕入単価で算出します。しかし、同じ商品でも季節的な要因や仕入数量などに応じて単価は変動することがあります。
例)同じ商品が仕入れ時期によって価格が変動した場合 6/1 単価100円で20個仕入れた 6/10 単価120円で10個仕入れた 6/20 単価 80円で10個仕入れた
仕入れた数量は合計40個ですが、この商品が月末時点までに30個売れた場合、在庫として残った10個はいつ仕入れたものか分からないことがあります。そこで、在庫として残った商品の仕入単価を、どうみなすか決める計算方法がいくつかあります。
原価法と低価法
在庫の金額を計算する方法は、大きく「原価法」と「低価法」に分けられます。
原価法は仕入単価を使い、低価法は仕入単価と期末時点の市場価格(時価)を比べて低い方を使います。
原価法
•先入先出法
•最終仕入原価法
•個別法
•平均法
•売価還元法
先入先出法
先入先出法は、先に仕入れたものから順次販売されるとみなして計算する方法です。上記の販売例で解説します。販売数量は30個の場合
6/1単価100円で20個仕入れた(売上原価)
6/10単価120円で10個仕入れた(売上原価)
6/20単価80円で10個仕入れた(在庫)
つまり(20個×100円)+(10個×120円)=3,200円が売上原価となります。在庫として残った10個は6/20の仕入れ分とみなすため、在庫の金額は10個×80円=800円です。
最終仕入原価法
計算方法がシンプルな最終仕入原価法もよく使われます。期末に最も近い時期の仕入価格を在庫単価として使う方法であり、上記の例では最後に仕入れた6/20分の10個×80=800円が在庫となります。
低価法
低価法は時価を採用できるため、流行遅れなど商品の価値が著しく下がる可能性のある商品を取り扱う小売店に適した方法と言えます。、
どの在庫評価の方法を選ぶかは、会社の任意で決められるため、商品の特性や実務の効率性を検討して選択しましょう。
会計で棚卸資産評価損はどう計上するのか?
棚卸資産評価損が発生したときには、損益計算書では売上原価に計上され、利益の減少要因となります。また、貸借対照表では、棚卸資産が損失分の金額だけ減少します。
評価損は売上原価として計上する
損益計算書上、通常は棚卸資産評価損は売上原価に含めることとされています。そのため、売上総利益を減少させる要因になります。上場企業等の損益計算書上に評価損の金額を表示している場合はほとんどありません。一般的には、PL関連の注記事項に売上原価に含められている評価損の金額が記載されています。
評価損が特別損失として計上される場合もある
特別な事象によって評価損が生じ、かつ、金額が大きい場合には、特別損失として損益計算書に表示されます。特別損失として計上されると、税引前当期純利益を減少させる要因となります。
(特別な事象例)
地震、風水害、火事などによって商品が全損又は一部損失
部門の統廃合など事業リストラよる商品の販売停止、処分
棚卸資産評価損になりやすい商品の特徴
売り時のタイミングを逸し、在庫の評価損が生じやすい商品には、いくつかの特徴があります。代表的な特徴は
1.仕入価格が変動しやすい
2.季節や流行に左右されやすい
3.新商品がでると型落ちする
の3つです。自社の取り扱う商品がこのような特徴を持つ場合には、市場の動向を注視して仕入・販売計画を策定する必要があります。
1.仕入価格が変動しやすい
仕入価格が変動しやすい商品には、石油関連商品や農水産物などを原材料とする商品があります。生産量、捕獲量及び為替など不確定な価格決定要因が多いと仕入価格は大きく変動します。例えば、釣り餌につかうアミエビの豊漁・不良により釣り餌の価格は左右されます。仕入れ値に合わせて売値を変動させると売れ残りとなるリスクが高くなります。
2.季節や流行に左右される
アパレル商品など季節や流行によって売上が大きく左右される商品は、一旦販売の時期を逃してしまうと商品価値が下がってしまうことがあります。来シーズンに販売できるチャンスがあれば問題ありませんが、多くの季節商品には流行が売れ行きに影響するものが多く、実質的には販売がとても困難な場合が多くなっています。例えば、カレンダーや干支関連商品などは、時期を外してしまえば、販売できるチャンスはありません。そのため、季節の変わり目には、前のシーズンの商品を値下げし在庫を少なくし、なるべく早く次のシーズンの新商品を店頭に並べる取り組みが必要となります。
3.新商品が出ると型落ちする
スマホなど電化製品は、新作モデルが発表されると型落ちモデルが値崩れを起こしやすくなります。発売からたった半年で、未使用品が半額近くに値下がりしてしまうケースもあります。最近では、電化製品によっては、新作モデルが機能的にはマイナーチェンジの場合が多いため、型落ちモデルの中古品市場も活性化しています。
評価損を損金算入するための条件
会計上は、棚卸資産の評価損を財務諸表にきちんと反映させることが基本です。ただ、法人税法上は、全ての評価損が損金として認められるとは限りません。税務上、棚卸資産評価損の損金算入が認められるためには、棚卸資産評価損について損金経理し、いくつかの条件を満たす必要があります。
1.棚卸資産が著しく陳腐化した
「著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにも関わらず、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいいます。
(著しく陳腐化したことの例示)
季節商品の売れ残りで、今後通常の価額では販売することができないことが過去の実績等から明らかな場合
形式、性能、品質等が著しく異なる新商品が販売され、今後通常の方法で販売できなくなった場合
2.棚卸資産が災害で著しく損傷した
商品や原材料等の棚卸資産が災害により滅失又は損壊した場合には、その損失又は費用の額は損金の額に算入されます。また、災害による著しい損傷によって、棚卸資産の時価が帳簿価額を下回る場合には、その差額を資産の評価損として損金算入することができます。
3.棚卸資産に破損・品質変化などが起きた
破損、型崩れ、棚ざらし品、品質劣化(日焼けや色あせなど)などにより長い間売れ残っている在庫品で通常の方法では販売できない場合にも評価損が認められます。
損金算入できないケース
期末時点の時価が、物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損は認められません。
評価損を損金算入する際の注意点
棚卸資産評価損は、課税所得や納税額を減少させますので、税務調査で指摘されやすい事項の1つです。損金算入を否認されないためのポイントは2つで、評価損が発生した理由と期末時点の時価の算定方法です。
税務調査では、この2つのポイントをきちんと説明できる資料を取りそろえておく必要があります。
証拠となる資料を用意しておく
税務上、棚卸資産評価損は「著しく陳腐化した場合」「災害などによって損傷した場合」「破損や品質劣化などの場合」にのみ損金算入が認められます。そのため、評価損を計上した理由がどれに当てはまるかを証明できる資料を用意する必要があります。
著しく陳腐化した場合
新製品のカタログ、チラシ
商品の販売実績の低下を証明できる集計表
中古市場、WEB市場の価格表、
災害などによって損傷した場合
災害等の様子が掲載された新聞記事
災害によって損傷した商品などの写真
災害現場の状況報告書
破損や品質劣化などの場合
破損、型崩れ、棚ざらしになっている状況の写真
正常品(品質劣化する前)の写真
時価の算定根拠をしっかりと示す
棚卸資産の評価損を損金算入するときには、「時価の算定根拠」を明らかにすることが重要です。この際の時価は、その商品が実際に売れる金額が基本になります。
売却市場がある場合
中古市場、ネット販売など売却市場での価格表など
売却市場が無い場合
期末前後での販売実績に基づく価格
顧客との契約により取り決められた価格
在庫セール(予定・実績)の価格
他社類似品の期末前後の販売価格表
過去商品の下落率などがわかる販売実績表
まとめ
在庫を評価することの意味や計算方法、評価損についてご説明しました。ポイントをまとめると以下のようになります。
1会社の損益を確定させるには、在庫評価として期末在庫の金額を計算する必要がある。
2在庫評価は商品特性や実務に合った方法を選択できる。
3品質劣化や流行遅れなどで価値が下がった商品の在庫は、差額を評価損として計上できる。
不用品が節税になるなんて、知りませんでした。。。
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