休業手当と休業補償の違いとは?新型コロナウイルス感染症による休業中の方は知っておいて損はありません!

保険の知識

勤務先が休業となった場合、通常時の60%相当の賃金額が休業手当で支給されます。しかし、1か月間すべて休業となると、その月分の賃金は休業手当だけになってしまいます。

「働いていないけれど通常時の60%がもらえる」と思うのか、「働きたいけど働けない。でも毎月の引き落とし額は同じなので、60%支給でも正直苦しい」と思うのか。はたして皆様はどうでしょうか?

苦しいと答えた方は「社会保険料や税金もこの60%相当額から天引きされるのか」が気にかかるところではないでしょうか?もし社会保険料などが天引きされるのであれば、実際に支払われる「手取り額」は、通常時の賃金の何%ぐらいになるのでしょうか?

休業手当にも社会保険料や税金がかけられます

新型コロナの影響で多くのお店や会社が休業していますが、事業主は休業1日について、通常時の賃金(原則として、休業前3か月間に支払った賃金の総額をその期間の総日数で割った額)の60%以上の「休業手当」を支払わなければなりません。この休業手当は課税処理されるのでしょうか?

残念なことに、休業期間中に支払われる「休業手当」は社会保険料や税金の徴収対象となります。「働けないときの補償である休業手当は我々の生活を守ってくれる制度なので、まさかその休業手当からは社会保険料や税金は徴収されないだろう」と思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。休業手当も社会保険料や税金の徴収対象となります。

1か月間すべて休業し、休業手当しか支払われない月であっても、天引きされる社会保険料や住民税は原則として休業前の月と同額です。まじっすか!それでは手取りはどのくらいなの?生活できませんよー。という声が聞こえてきそうです。

前年の収入から算出される社会保険料や住民税

月々の賃金からは、どのような社会保険料や税金が天引きされているのでしょうか。

(1)健康保険料:原則、標準報酬月額の約4.9%。

※標準報酬月額:前年4月~7月の3か月間に支払われた賃金の平均額

※40歳以上の従業員は、これに介護保険料約0.9%が加算

(2)厚生年金保険料:原則として、標準報酬月額の約9.2%。

(3)雇用保険料:その月に支払われた賃金の0.3%。

(4)源泉所得税:その月に支払われた賃金の約1.5%。

(5)住民税:前年の年収によって算出される。前年の月収の約3.0%。

ここで注意が必要なのは「健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・住民税は、前年の収入等から算出される額であるため、休業によって賃金が一時的に減った場合でも、その月の賃金から天引きされる額は変わらない」ということです。前年と今年で収入が違うのになぜ?って思われる方もいらっしゃるかと思います。プロ野球選手等が前年からの大幅減俸になった際は、前年の高額所得で計算されますのでとても大変になる、と聞いた方もおられるのではないでしょうか。

実際に通常時と比べると手取り額はどの程度下がるのか?

通常時賃金が30万円の人について60%の休業手当が支払われた場合の手取り額を試算してみます。※比較しやすいように前年の賃金も今年と同額であったものとします

通常時の賃金が30万円の場合、そこから社会保険料・税が天引きされ、実際に支給される手取り額は約24.3万円となります。休業期間中に通常時賃金の60%に相当する18万円の休業手当が支給されますが、そこから社会保険料・税が天引きされ、手取り額は約12.5万円となり、通常時の約51になってしまいます。(下表参照)

聞いていたのと違う!60%でも生活が怪しかったのに、50%強では生きていけない!しかしながら、現在の状況を考えると、休業による手取り額の低下はやむを得ないものと受け入れるしかありません。休業させている使用者側も収入がない中、休業手当を支払っているのです。では、この休業手当を支払う側の義務とはどのようなものなのか触れていきたいと思います。

新型コロナウイルス感染症による休業手当の支払い義務について

休業手当は使用者の責任で休業させる場合に支払う義務があると定められています。新型コロナウイルス感染症による休業は、使用者の責任がない「不可抗力」と判断されれば、休業手当自体の支払い義務はありません。コロナ禍における緊急事態宣言によって休業を選択した会社について、休業手当の支払い義務があるかないかについて、2020年7月6日時点では厚生労働省も明確な見解を出していなかったのですが、11月13日版では以下のようなQ&Aを出しています。

<感染した方を休業させる場合>

問2 労働者が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合、休業手当はどのようにすべきですか。

回答:新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。

<感染が疑われる方を休業させる場合>

問3 新型コロナウイルスへの感染が疑われる方について、休業手当の支払いは必要ですか。

職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、

①その原因が事業の外部より発生した事故であること

②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること

 という要素をいずれも満たす必要があります。

詳細は以下からご確認ください。

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)について紹介しています。

休業手当と休業補償との違い

休業手当と同じように思われる制度として、休業補償という制度があります。その違いを簡単にまとめます。

休業補償とは「業務上の負傷又は疾病による療養のために休業している場合に支給されるもの」です。つまり労災です。休業が通算して4日目からは労災保険により「休業補償給付」として支給されます。なお、休業開始から3日間分は、会社が休業補償を支払わなければなりません。

一般的には、休業手当が想定しているのは、不景気や生産調整といった会社都合の休業の場合のため、業務災害を想定している休業補償とは全くの別の規定となります。二重支給は基本的に考えられないためどちらかになります。

休業手当は賃金として扱われるのに対し、休業補償は賃金ではない、という点です。この違いは大きな違いです。つまり休業手当の場合は「賃金」のため社会保険等がかかってしまい、上記にあるように通常賃金の50%強しかもらえません。一方休業補償は「賃金」ではないため社会保険料はかから補償額がそのままもらえます。

まとめ

休業補償の方が補償額としては一定額もらえるため、新型コロナウイルス感染症の労災認定の申請件数は増加しています。新型コロナウイルス感染症の労災認定につきましては、こちらの記事をご覧ください。

新型コロナウイルス感染症の労災認定について
職場で新型コロナウイルス感染症に感染した! これって労災?!

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